美の探求と霊璧石
「美の探求」とは、特別な知識を示すことではなく、
自然がつくり出した形を落ち着いて見る時間をつくることだと考えています。
霊璧石は、そのための最もシンプルで誠実な対象です。
自然がつくり出した形
霊璧石は中国・安徽省で産出され、
長い年月の自然の作用によって形づくられた石です。
人工的な加工を含まず、溝・起伏・孔隙・陰影など、
自然の作用そのものが残っています。
石質は非常に硬く、軽く叩くと澄んだ音が響きます。
この特性から、古代には礼楽器の素材としても用いられました。
静かに見るという姿勢
霊璧石は、一目で意味がわかる対象ではありません。
だからこそ、見る人は自然と視線の速度を落とし、
形、凹凸、空隙、陰影の変化を静かに確かめようとします。
この静かな観察の時間そのものが、
私たちにとっての「美の探求」です。
受け継がれた鑑賞文化
霊璧石は中国で、
自然の造形を静かに味わう観賞石として大切にされてきました。
その背景には、
自然の秩序や精神性を見出そうとする、
中国古代から続く思考の在り方も息づいています。
日本でも江戸期には市河米庵ら文化人が霊璧石を収集し、
煎茶文化の記録などにその姿が残されています。
中日それぞれの文人たちが、
自然の形を前に静かに向き合ってきた石です。
なぜ霊璧石を紹介するのか
ここで霊璧石を紹介するのは、
特別な知識を示すためではありません。
自然がつくり出した形を前に、
落ち着いて物を見る時間を取り戻したいからです。
霊璧石は語りません。
ただ静かにそこにあり、
見る人それぞれの気づきを引き出します。
霊璧石が形づくられたのは、
およそ4億4千万年から8億年前、
はるかに遠い地球の時間の中です。
人の一生や人類の歴史と比べても、
その時間の長さは想像を超えています。
その圧倒的な時間の前に立つとき、
私たちは自然を、ただ手に取る対象としてではなく、
静かに向き合い、敬意をもって共に在る存在として
捉え直すきっかけを与えられるのかもしれません。
現在、京都にて霊璧石の展示空間を準備しています。
完成後には、画面を越えて、
石のかたちや佇まい、静けさを、
その場で感じていただける場所になる予定です。
